再生方針決議/売却推進決議と2つの認定(耐震性不足、買受計画)
マンション建替え円滑化法の改正により敷地売却が現実の選択肢となりました。マンション再生手法のひとつとして2-5で概略の説明をしましたが、本章では、敷地売却を行う際の実務的な流れを各プロセス毎に注意点などとあわせて確認していきます。
プロセスは大きく、「マンション敷地売却決議」を取る前と後で分かれますので、2つの段階に分けて説明します。決議前には耐震性不足の認定と、買受計画の認定の2つの認定が必要になります。また、決議後は、敷地売却組合を設立する認可と、分配金取得計画の認可の2つの認可が必要になります。それぞれ、詳細を見て行きましょう。
●再生方針決議
修繕・改修か、建替えか、敷地売却とするか平行して調査・検討していく中で、計画概略や費用の試算についてある程度の材料がそろったところで、どの方向(手法)で、今後、本格的に検討を進めるかという、“再生方針”について組合での総意についての決議をとっていきます。
・決議は、普通決議(区分所有者及び議決権の各過半数)で行うことができます。
・注意点としては、法で求められた手続きではないので、この決議で、方針の結論が決まったわけではないことの周知をしっかり行う必要があります。
●マンション売却推進決議
再生方針決議により、大まかな総意としての敷地売却の方針が決まった場合、法的要件である「マンション敷地売却決議」へ向け準備を進めていきます。
マンション敷地売却の決議に向けては、要件である①耐震性不足の認定、②買受計画の認定の2つの認定を得る必要があります。その認定申請を行うために、より着実に合意形成を進めるために「売却推進決議」を行います。この決議も、再生方針決議同様、法で定められた手続きではない点、これにより売却が決まるわけではない点など、本決議の意味を事前にしっかりと説明することが重要です。
買受け候補者の選定
買受計画の認定を今後行っていくのに先立って、買受人となるデベロッパー等の候補選定を行います。(従来の建替えの場合は「事業協力者」)
選定方式としては、特定者へ特命で発注する随意方式によるものか、数社での競争(コンペ方式)が想定されます。随意方式では、その業者を選定したことへの合理的な理由の説明等の情報の透明性が要求されます。組合員間で不信感が生じないよう十分注意が必要です。また、コンペ方式の場合は、条件提示を具体的明確にし、平等に比較を行い易いプロポーザルを実施する必要があります。この点で、コンペを取り仕切る専門家(コンサルタント)の役割も重要になります。
合意形成の専門家による自ら買受人となる場合の留意点
合意形成段階から、事業手法の選定等にも関わる専門家が、その後、自らが買受人となる場合は、利益相反の観点について不信感を持たれることがないよう十分注意する必要があります。買受人をコンペ方式で選定する事を考えると、買受人(デベロッパー等)と合意形成・事業手法選定等の補助・支援をする専門家(コンサルタント)とは分けて考えることが望ましいです。
●認定①:耐震性不足の認定 (除却の必要性に係る認定)
耐震性不足の認定(建替法102条の「除去の必要性に係る認定」)の申請を、マンションの管理者等は、特定行政庁に対して申請します。
認定の確認内容:
・耐震性不足の事実
・管理組合の総会の決議の事実(当該認定の申請を行う)
認定の申請:
・耐震性不足の認定の申請は、集会の普通決議(区分所有者および議決権の各過半数)で行います(本
認定により除去が決まるわけではなく、あくまでも管理行為という扱い)。
・認定を受けたマンションは「要除却認定マンション」となります。ここでの注意点は、本認定を受けると、資
産の処分(売却しづらくなる等)に制約が生じることが予想されるため、事前に十分な説明が必要です。
・認定申請書には、①議事録(認定申請を決議した集会での)、②構造計算書、③耐震診断の証明が必要。
認定の基準:
・耐震診断資格者(建築士で、国土交通省の講習を修了したもの)により行われる。
・耐震改修促進法第25条の耐震改修の必要性に係る認定基準と同様(構造耐震指標Is値0.6未満)
認定の効果等:
・要除却認定マンションは、容積率の緩和特例の対象となります(建替法105条)(敷地売却制度による建替えのみならず、従来の建替えも対象となります。)
・要除却認定マンションの区分所有者には、当該マンションについての「除却の努力義務」(建替法103条)がかかり、都道府県知事等は除却が行われない時は、指示および公表ができます(建替法104条)
●認定②:買受計画の認定
買受人となるデベロッパー等は、買受計画を作成し、敷地売却決議が行われる前に、都道府県知事等へ申請し、認定を受けます。
ここで、選定されたデベロッパー等は、この後のマンション敷地売却決議で、「買受人となるべき者」として定められることになります。
買受計画は、管理組合と買受人(デベロッパー等)となる者との間で、事前に十分な調整を行う必要があります。認定申請の際には、十分に調整された旨(申請者が管理組合等によって選定されたものか)など示す事(確認書や総会議事録を添付)により、買受計画の妥当性を考慮に資するものと考えられます。
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